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ボストン

静岡文化芸術大学教授 藤井康幸

米国ボストンの衰退地区におけるコミュニティランドトラスト

ボストン市内南部に位置するダッドリー(Dudley)地区は今日でも、市内最貧困地区の一つであるが、1980年代より、コミュニティランドトラストの仕組みによる地区再生が手掛けられてきた。Dudley Street Neighborhood Initiative(DSNI)は1984年設立の非営利組織であり、約25haの地区で活動する。DSNIはボストン再開発公社から当該地区に限定した強制収用権(eminent domain)を付与されており、民間組織が強制収用権を行使する米国でほぼ唯一の事例とされる。2017年5月にDSNIを訪ねた。

Dudley Neighbors Incorporated(DNI)はDSNIの下部組織としてのコミュニティランドトラストである。コミュニティランドトラストとは、不動産について建物と土地の上下分離をはかる米国独特の仕組みである。土地は、地区を単位に設置されるコミュニティランドトラストの共有財産とされ、個々の住宅所有者が分離保有するものではない。一方、上物(建築物)については、個々の居住者の単独所有となる。土地はコミュニティランドトラストが居住者にリースする形がとられるため、価格の低減が実現し、世帯所得が十分でない場合にも、住宅を所有することのできるアフォーダビリティの確保が可能となる。売却時に、不動産価格が上昇していた場合の上昇分は、居住者とコミュニティランドトラストが分け合う形がとられる。ダッドリー地区全体では200余のコミュニティランドトラスト住宅があるが、コミュニティランドトラスト以外の一般の住宅も多く存在する。

DNIはコミュニティランドトラスト方式によるアフォーダブル住宅供給事業を中心に、地区内の拠点建物の空き空間における業務商業と住宅の混合開発、空き地でのコミュニティ農園芸事業、さらには、学校やソーシャルサービスを手掛けている。徒歩で容易に全域を回ることのできる顔の見える範囲において、住宅に加え、地区住民の福祉全般を扱う点は、米国で一般的なCDC(community development corporation、地区単位で活動するコミュニティ開発のための非営利組織)の扱う事業と変わるところはない。

米国では、略奪的融資に端を発し、抵当差押危機(foreclosure crisis)と呼ばれることとなった2008年前後に中位あるいは低位の住宅地区が疲弊することとなり、大きな社会問題となったが、ダッドリー地区では、略奪的融資と抵当差押の問題は小さかったという。これには、コミュニティランドトラスト住宅の入居と融資(典型的には30年)に、DNIが関与することで、地区外の無責任な事業者が入っていることが少なかった点が挙げられている。ローンの滞納が起きた場合には、DNIは底地所有者として、居住者と金融機関の間に入り、問題の解決にあたる。また、市内や周辺地区の不動産価格が上昇した場合にも、ジェントリフィケーションの抑制も期待できるという。これにも関連し、全般的には、コミュニティランドトラスト住宅の住民の入れ替わりは少ないという。

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