縮小都市データベース

金沢

龍谷大学政策学部 服部圭郎

概要

石川県の県庁所在地である金沢市は、人口45万強(2019年)の都市である。尾山御坊の寺町として発展し、その後、加賀藩前田家の城下町として栄える。第二次世界大戦での戦災や大きな災害を免れることができたため、江戸時代の街並みが現在でも残っている。金沢市の人口は江戸時代からすでに10万人を越え、幕末には江戸、大坂、京の三都、そして名古屋に次ぐ都市として発達するが、明治維新以降、太平洋側の都市が急成長し始め、神戸、横浜等の後塵を拝すことになる。戦後、周辺に位置する富山市や小松市が製造業・化学工業などで発展していく中、金沢市は津田駒工業やアイ・オー・データ機器などは立地するが、総じて商業や観光業に従事する人が多く、消費都市として発展していく。

 人口は明治維新の直後は減少するも、それから緩やかに増加していく。ただ、その増加率は他の地方中心都市と比べると決して高くはない。1995年に人口45万人を越えると、その後ほぼ横ばいで推移をしており、2019年の人口数は45万3654人である。この9年間(2010?2019)では、1%ほどの自然減であるが、2%ほどの社会増であり、自然減を社会増で補っている傾向があることがうかがえる。それ以前の金沢市は、社会減を自然増で補っていた傾向があったので、2008年以降社会増に転じ、また2012年以降は自然減に転じるなど2010年以降、金沢市の人口動態には大きな変化が生じた。

 さらに、社会増の追い風となっているのが北陸新幹線である。北陸新幹線は2015年3月に金沢まで開業し、日本政策投資銀行のレポートによれば、石川県への経済波及効果は約678億円と、開業前予想の124億円を遙かに上回るものとなっている。そして、この経済的インパクトは、都心部においてジェントリフィケーションの課題を生じつつある。北陸新幹線の開業によって、金沢市の路線価の伸びは全国地域と比べ大きく上昇し、またオフィス立地や新規の店舗出店も増えている。旺盛な観光需要を反映したホテル関連投資も活発化している。

町家をリニューアルして店舗として活用している「八百萬本舗」

 このような動向は、金沢に多くある伝統的町家(1950年までに建築された木造建築)の保全活動に新たな対応を迫ることになる。金沢の町家は貴重な都市資源であるが、「古い、暗い、寒い」と敬遠され、取り壊され、減少する傾向にあった。町家を保全しつつ、新たな時代のニーズに対応して活用すべき対策として、金沢市では新幹線開業以前の2013年に「金澤町家の保全および活用の推進に関する条例」を策定している。この条例を制定後の5年間でも、約6100棟あった町家が550棟ほど失われるなど、町家の取り壊しは進んではいるが、幾つか、モデル・ケースとも呼ぶべき町家保全活用事例も見られるようになってきている。例えば、2015年3月に開業した複合商店「八百萬本舗」、2016年3月に開業したホテル「HATCHi金沢」、2017年8月に開業した複合ホテル「KUMU」などである。これらの先駆的な事例に刺激され、住まいだけでなく、レストラン、カフェ、店舗、ギャラリー、工房、ゲストハウスなどへと町家がリノベーションされ、金沢の中心市街地に古くて新しい魅力を創出している。

町家ではないが、仏壇屋の建物が
シェアホテルにてリノベーションされ活用されているホテルHACHi

 政令指定都市を除く県庁所在地の35都市のうち、2010年から2019年までで人口が増加したのは11都市のみである(市町村合併をした松江市を除く)。それらのうち自然増をみたのは6都市のみだ。一方で社会増をみたのは25都市である。金沢市は、自然減の人口を社会増で補い、その維持が図られている都市であるが、一方でそれはジェントリフィケーション化が伴い、町家といった都市資源を積極的に保全する政策が求められることにもなる。金沢市は人口縮小時代の社会増といった「勝ち組」においても、微妙なさじ加減を要する都市政策が必要であることを我々に提示している。

(参考資料):日本政策投資銀行(2016):「北陸新幹線金沢開業による観光活性化が石川県内に及ぼす経済波及効果」、2016年度北陸支店レポート(https://www.dbj.jp/pdf/investigate/area/hokuriku/pdf_all/hokuriku_1612_02.pdf)?閲覧日2020/05/06

■政策のポイント 

社会増は、自然減によって人口が減少するようになった金沢市にとっては総じてプラスであるが、それによって生じたジェントリフィケーションというマイナスの課題も生じつつある。特に、歴史的資源である金澤町家の解体を促すことにもつながり、このジェントリフィケーション化が都心部で進む中、それらをいかに保全し、しかも現代的なニーズに対応させるかというのが大きな政策課題となっている。金沢市も積極的に、条例を制定するなどして、その保全活用が進められるよう政策のフレームワークを設けるようにしている。最近では、ホテル、カフェ、レストラン、店舗などにて、これらの町家を保全しつつ、新たな都市の価値を生み出すような流れが見え始めている。

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