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ボルティモア

米国ボルティモアにおける管財人制度による空き物件対処

静岡文化芸術大学教授 藤井康幸

ボルティモア市の人口は2010年から2015年にかけて微減となり人口減少にほぼ歯止めがかかったが、他の米国都市同様に、市内の貧富の差、地区ごとの住宅価格の差の大きな都市である。市の空き家・空き地対処施策である「Vacants to Value」の所轄部署、市と協働する放棄物件管財社、並びに、関連の事業者を2016年5月に訪問した。

Vacants to Value施策は、地区の再生に寄与することの期待される事業への市有地の優先的な売却と、空き家に対する違反規定の適用と違反が是正されない場合の管財機関による物件没収と競売がポイントである。市有地の優先的な売却は競売原則によらず、市と事業者の協議によって売却が決定される。一方、空き家放置に対する是正勧告では、空き家状態の解消されない場合に所有権移転のための法的手続がとられる。もっとも、それらの物件は行政への所有権移転はなされず、市の指定する管財人による競売を経て、物件利活用者に所有権が移転される。ランドバンクでは、いったん物件の所有権が公的機関であるランドバンクに移動するが、Vacants to Value施策ではそれがない。

競売を担うのは、ボルティモア司法当局から管財人として指定されたOne House At A Timeというユニークな名称を冠した非営利組織である。管財機関が介在することで、物件取得者が物件取得の際に、名義や抵当等について心配する必要がなくなる。競売における最低入札価格は$5,000と規定されているが、競売において未売却となった物件は、物件取得希望者との協議により、最低入札価格で事業者に売却されることがある。

事業者の多くは小規模であり、市内の中位から低位の地区に根付いて事業展開する。Vacants to Value施策は競売方式であり、特定の企業が希望する物件を取得できないことも発生しそうであるが、多くの地区では需要が小さく、競合の激しさによる物件取得の難しさはそうはないとのことであった。逆に、1社のみで扱うには、衰退地区の空き物件は多すぎるため、複数の事業者間が協力して取り組む場合もある。同時に、CDC等の地元ベースの非営利事業者と、営利事業者の協働もなされる。住宅の購入者に対しては一世帯あたり$10,000の助成がなされる。空き物件を取得し、事業を行う事業者の事業成立の支援という意味合いもある。

Vacants to Value施策の事業地区の選定については、The Redevelopment Fund (TRF) 社が開発し、米国の多くの人口減少自治体で採用されている住宅市場性分析データのMarket Value Analysis (MVA)が活用されている。MVAは、国勢調査地区単位で、人口増減、世帯所得、貧困率、犯罪発生率等のデータが総合化され、住宅市場性が5分類で示される。Vacants to Value施策の対象地区は全般に、5分類のうちの真ん中の地区と下から2番目の地区が多くみられる。

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