縮小都市データベース

シュヴェート(Schwedt)

龍谷大学政策学部 服部圭郎

シュヴェートを訪れる。ブランデンブルク州の北東、ポーランド国境のオーデル川沿いにある町である。旧東ドイツに計画的な産業都市として位置づけられた。同様に産業都市として位置づけられたホイヤスヴェルダ、アイゼンヒュッテンシュタットとともに「縮小都市御三家」と私は勝手に名付けている。しかし、小さな集落しかないところに巨大な製鉄所をつくったアイゼンヒュッテンシュタットや、小さな村落のところに巨大な褐炭コンビナートをつくったホイヤスヴェルダとは異なり、シュヴェートは13世紀頃から人が住み始め、15世紀には町としての権限が与えられているなど、それなりに発展をしてきた。第二次世界大戦の後半、シュヴェートは大きな爆撃を幾つか受け、シュヴェート城を含め町の85%が破壊された。第二次世界大戦終戦後直前に、この町はソ連の支配下になった。

旧東ドイツ政府はここにドイツ最大の石油精製所を設け、それをロシアのパイプライン・ネットワークと繋げた。この石油精製所は年間2000万立法メートルの水を必要とするため、オーデル川沿いのこの町は立地条件を満たしていたと考えられる。さらに、シュヴェートの北部に巨大な製紙工場を建設した。旧東ドイツ時代は、この町に移動することが奨励され、これらの精製所、工場に働くために外部から来た人達のためにプラッテンバウ団地が多くつくられ、それは全住宅の9%までを占めることになった。

その人口のピークは1985年で54142人。再統一直後の1990年は53628人であったが、直後から急激に人口が減少し始め、2015年からはその減少は緩やかになり始めているが、それでも減少は続き、2020年には1985年の54%の29433人ほどまで減少する。

シュヴェートは「東の都市改造(シュタットウンバウ・オスト)」プログラムに先んじて、プラッテンバウ団地の倒壊に踏み切った自治体として知られる。そのINSEK(マスタープラン)によれば1999年に「オーバー・タルサンドテラッセ・プログラム・エリアの特別所見(Vorbemerkungen zum Programmgebiet Obere Talsandterrasse)」というプログラムを発効させ、同市の西側にあるオーバー・タルサンドテラッセ地区のプラッテンバウ団地を倒壊し始める。

2006年の訪問時点での写真。このような建物は2024年時点ではすべて倒壊されていて見られない。

空き家率の状況であるが、一番深刻だったのは2002年で既に47%に達していたのはアム・ヴァルトラント地区である。この高さは既に、倒壊事業に手が付けられていたということもある。同地区の空き家率は1998年に28.3%であったが、2008年は倒壊事業によって3.9%にまで減少し、2022年は1.8%にまで減る。タルサンド地区は1998年で21%であったが2008年には1.7%で、2022年は2.1%。タルサンド地区のそばにあるカスタニアン地区は1998年で9.4%であったのが、2008年には17.4%まで増え、その後、2020年には0.9%にまで減少する(筆者の取材調査による)。

これによって1000戸が倒壊される。それ以外にも再開発(Sanierungsgebiet)関連の予算で482戸、ブランデンブルク州の予算で264戸、さらに2002年という早い時点でシュタットウンバウ・オスト・プログラムの予算で356戸を、シュタットウンバウ・オスト・プログラムが本格的に展開する2003年より前に倒壊している。倒壊事業のまさにパイオニアのような自治体であった。、

住宅会社別の年次別建物倒壊数

シュタットウンバウ・オスト・プログラムで6316戸数を倒壊している。シュタットウンバウ・オスト・プログラムが終了した後は、新たなシュタットウンバウ・プログラムで倒壊はせずに減築的対応で住宅市場の供給過多、そして、需給とのミスマッチに対応している。地区別にみると、アム・ヴァルトラントで約6000戸と大多数を撤去している。ここは現在、その3/4が森林に戻され、残ったものも低密度化が図られている。

これらの倒壊とリニューアルに合わせて、シュヴェート市は道路や広場の改善を行う。実際、現在、この町を訪れると、その公共空間が随分といい状態にあるのを確認することができる。これらのリフォームは倒壊事業を行う以前から既に行われていたが、この倒壊事業という都市にとって短期的には心理的にマイナスをもたらす事業と、公共空間のアップグレードという心理的にプラスをもたらす事業を平行に実施したことで、縮小に対してそれほど市民が悲観的に陥ることを回避した。これは社会減を少なくする効果をもたらしたのではないかと推察される。

倒壊されず残された建物はしっかりとリノベーションがされている

シュヴェートは、倒壊事業はもう終了したと考えている。これからは、いかに人々のニーズに既存の住宅が応えることができるかが課題となっている。

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