縮小都市データベース

福井市

静岡文化芸術大学教授 藤井康幸

新栄テラスとは青空駐車場の上にウッドデッキを敷いた広場である。福井市のまちなかに位置し、福井駅からも300m程度のところにある。福井市は県庁所在地とはいえ人口規模の大きくない地方都市、かつ、自動車依存度の高い都市(福井県の世帯当たりの自家用乗用車の普及台数は全国第一位)であり、まちなかの一部には空き店舗や空き区画が顕在化している。福井市の2013年時点の資料1によれば、新栄テラスのある新栄商店街周辺地区の5街区計0.8haにおいて、築60年以上の木造建築物が地区内の建物延面積の77%を占め、老朽建物が密集している。同地区の立地はよく、周辺地区と同様に、権利変換方式による市街地再開発事業の実施が何度か検討された地区であるが、権利関係が輻輳していることもあり、大規模な再開発事業は進展しなかった。

福井市と福井大学原田陽子研究室は2013年より、まちなかの低未利用地の利用転換について調査研究し、新栄商店街周辺地区をモデル地区として選定した。同年に、地区の不動産所有者に対する意向調査が行われ、「所有不動産についての明確な活用意向が見られない」「将来展望として店舗や小広場を望む人が多い」ということがわかったという。その結果、2014年から2015年にかけて社会実験が実施された。社会実験後の2016年4月には、新栄商店街の商店主が主体となる新栄テラス運営委員会が発足し、福井市、福井大学、地元の自治会などの協力する体制となった。

これらの関係者による事業スキームはユニークなものである。新栄テラスの敷地自体は民有地であり、元々民間駐車場のあった当該敷地と地区外の市営駐輪場が等価で貸借され、市は借り受けた当該敷地を2019年3月末までの3年間の契約で新栄商店街振興組合に無償貸与している。事業主体となった商店街の負担を減らすための行政支援である。

新栄テラスは様々なイベントスペースとして活用されており、2016〜2017年度のイベント開催実績は延べ23回、そのうち貸出しが延べ13回と、運営委員会による自主企画の回数を上回っている1。さほど規模の大きいとはいえないテラスを舞台に、様々な人や団体が集、交流する場が実現された。2015年度に実施された来場者調査では、約9割の人が「まちなかの印象が好転した」と回答している点は注目に値する。新栄テラスと期を同じくして、新栄商店街周辺地区、並びに、新栄テラスの中央1丁目の空き店舗数は2015年から減少に転じた1。老朽建物の多い新栄商店街周辺地区であるが、現地調査時には、古びた空き店舗に若年経営者が賃貸入居する店舗が複数見受けられた。ミスマッチの妙ともいえ、それまでになかったまちなかの雰囲気が醸成されつつあった。

事業費のかさむ恒久的な開発が現実的でないまちなかにおいて、地元の意向を探りつつ、事業費の小さくて済む暫定的な利活用方法を見出す、当初は行政と大学がリードし、徐々に、地元主体に切り替えていくという戦略は、全国他都市のまちなかの活性化に展開可能なものといえよう。

1 福井市『駐車場の暫定利用による地域価値の向上』第31回全国駐車場政策担当者会議(2018年2月2日)資料

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