縮小都市データベース
テンプリーン (Templin)
龍谷大学政策学部 服部圭郎
テンプリーンはブランデンブルク州の北部に位置する。ベルリンから北に65キロメートルほど離れたところに位置する。17世紀の30年戦争で激しく町は破壊された。1816年からはプロシアの領土となった。テンプリーンは小さいながらも市壁を有しており、旧市街地に入るための3つの門塔がある。それ以外にも壁の外と結ぶ道路があるが、これらは壁を壊してつくられた。テンプリーンは近年、スパをつくり、観光が重要な産業になりつつある。年間の宿泊者は32万人とそれほど多くはないが、ベルリンからの人気の日帰り観光地となっている。それ以外の産業としては林業、金属加工業がある。
テンプリーンの人口は20世紀にはじわじわと増加して東西ドイツが統一された1990年には18884人になった。その後、人口は緩やかに減少し始め、2020年には15638人になっている。
テンプリーンは2007年にシュタットウンバウ・オスト・プログラムに指定された。それに合わせて「統合都市開発コンセプト2030」を策定し、そこでは5つのアクション・プログラムが記述されている。そのうちの一つ「都市開発・住宅・交通」に注目すると、そこでは歴史的旧市街地の重要性が強調されている。そこには「テンプリンは都心部を生活・仕事するうえでの活力のある中心として機能することに集中する」と書かれている。自治体としては社会流出を抑え、むしろ社会流入することを望んでいる。テンプリーンの縮小政策は、一部の減築とリヒエナー・通りの団地を積極的にリノベーションすることである。テンプリーンには市の住宅会社(WOBA)と住宅組合の住宅会社(WBG)がある。さらに、オープンスペースのリデザイン、空き家の減少、住宅団地をより田園風にロマンティックなデザインに変えるというものである。具体的には室内のレイアウトの変更、新たなバルコニーの設置などを行った。特にペンキに関しては、ペンキ屋が頑張ったこともあり、他の都市と差別化されるようなペンキで住宅が塗られている。シュタットウンバウ・オスト・プログラムが終了した2018年以降は、住宅会社が独自の判断で縮小対策を行っている。
テンプリーンでは住宅団地の住宅の全倒壊の計画もされたが、結果せずに、基本、減築で対応した。これは、それほどは人口減少を体験しなかったということが要因としては大きい。というのも、テンプリーンは社会増が見られ、周辺の市町村から人が移住してきたり、またベルリンに通勤したりする人もいる。空き家率の具体的な数字は、取材先の住宅会社もしっかりとした情報を提供してくれなかったので把握できなかったのだが、3%以下だとのことである。一方で、6階建ての建物でエレベーターが設置されていないものが多かったので、そういう点から減築をした。5階以上の建物に住みたい人がいなかった、ということもある。エレベーターを設置しなかったのは、エレベーターを設置するとランニング・コストが高くなってしまうから、という経営的な判断である。また、テンプリーンは田舎(田園)なので、6階建てのように住戸密度の高い建物を人々は欲してない。低層の方が需要はあるのと、減築の方が全倒壊して、新たにつくるよりかは安くて済むということで、減築の判断をしたそうである。また、家賃を考慮して、室内のレイアウトは変更した。販売するうえでの重要なポイントはバルコニーである。大体、これらの住宅団地の平均的なサイズは50㎡である。
リノベーションの費用は最近、高騰しており、不動産の価格も20年前から二倍ほど増加している。労働賃金も材料価格も非常に高くなってしまっている。ただ、ブランデンブルク式といわれる古くて部屋も狭いものは、価格は上がらず、以前、低い家賃で借り手を探しているような状況になる。ブランデンブルク式には、オーブンがあったのだが、再統一後は、オーブンを取り外してセントラル・ヒーティングにしたそうだ。タイルなしの風呂場もつくったそうである。とはいえ、リノベーションをした1993年後から30年経ったため、フラットごとに対応しなくてはならないような状況になっている。
住宅会社が住宅の減築をするうえで、市役所の計画との調整をしなくてはいけないか、という質問に対しては、住宅組合の住宅会社に関しては勝手にできるとのこと。したがって、都市計画との関係性とかは特にない。ただし、市の住宅会社には委員会があるので、委員会を通さないといけないそうである。市役所の部署で一番、厳しいのは歴史建築物の部署であり、住宅組合の住宅会社もこの部署には許可を受けなくてはいけないそうだ。また、市の住宅会社も住宅組合の住宅会社も減築するうえでは市議会では審議が必要なようである。
テンプリーンはシュタットウンバウ・オスト・プログラムにも指定され、INSEK(マスタープラン)では一度は住宅団地の完全撤去の計画も為されたのだが、結果、そのような対応はせずに減築で対応することになった例外的な事例である。これは、 ベルリンから近いことと、田園集落のような雰囲気があること、歴史的旧市街地があり、自然も豊かで、社会基盤もしっかりしているということで、人口減少はしつつも、それなりに都市への住宅需要があったので、人々のニーズのない5階以上の住宅団地を部分撤去することで対応できた、ということは指摘できよう。また、最近のコロナもテンプリーンには追い風であったそうである。人口が5万人以下で、それなりに魅力のある都市は、最近、人気を有しているそうである。ただ、それなりの都市サービスが必要で、病院、専門医がいることや、高校があることは条件であるそうだ。